第61回⽇本癌治療学会学術集会 
イブニングセミナー (2023年10月開催)

座長: 櫻井 晃洋 先生
札幌医科大学医学部 遺伝子診療科 教授 
演者: 織田 克利 先生
東京大学大学院医学系研究科 医用生体工学講座 統合ゲノム学分野 教授
東京大学医学部附属病院 ゲノム診療部 部長

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コンパニオン診断の保険適用範囲の拡大やがん遺伝子パネル検査の登場により、HBOCの診断に至る過程が多様化しています。遺伝子検査により得られた情報が薬剤選択や治療効果にも影響を与えるため、がん治療と遺伝医療の両方の視点で、検査のタイミングを考える必要があります。

本講演では、産婦人科、癌、ゲノム医療等の幅広い分野に精通され、多くの受賞歴をお持ちの織田先生に、HBOC診療の現状と課題についてお話しいただきました。


各がん種におけるHBOC診断に関わるコンパニオン診断(CDx)

BRCA1/2遺伝学的検査は、2018年に「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」に対するPARP阻害薬のコンパニオン診断(CDx)目的で保険適用となり、その後遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診断目的でも保険適用となりました。PARP阻害薬の適応拡大に伴い、コンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査の保険適用範囲は拡大しており、今後もさらに広がる可能性があります。

各がん種におけるPARP阻害薬の適応とコンパニオン診断について表1にまとめました。

表1: PARP阻害薬の適応とコンパニオン診断(CDx)

PARP阻害薬に対するコンパニオン診断の検査は現在3種類あり、がん種ごとに実施可能な検査が異なっています。

乳癌と膵癌は、生殖細胞系列(Germline)のBRCA1/2(gBRCA)病的バリアントを検出する「BRACAnalysis®診断システム」のみが実施可能です。これはGermlineの病的バリアント陽性率が体細胞(Somatic)の病的バリアント陽性率に比べて相対的に高いことが一つの要因1)と考えられます。

卵巣癌では、「BRACAnalysis®診断システム」のほかに、ゲノム不安定性の状態(Genomic Instability Status: GIS)の評価と腫瘍組織におけるBRCA1/2(tBRCA)病的バリアントの検出により、相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency: HRD)を評価する「MyChoice®︎診断システム」が主に実施されています。卵巣癌(特に高異型度漿液性卵巣癌)ではGermlineの病的バリアントのみでなく、体細胞由来(Somatic)のBRCA1/2(sBRCA)病的バリアントの割合も比較的高く1)、HRD陽性が約5、6割を占めると報告されています2)。HRD陽性例の中には、メチル化などのエピジェネティックな変化やBRCA1/2以外の相同組換え関連遺伝子の病的バリアントが含まれるため、個々の要因の有無ではなくHRDの状態を判定することが有効となります。

前立腺癌では、gBRCA2が8.6%、sBRCA2が7.7%、gBRCA1が0.9%、sBRCA1が0.9%、とGermlineとSomaticの頻度がほぼ同程度であると報告されています3)。tBRCAを検出できる「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」はがん遺伝子パネル(CGP)検査として実施できるタイミングが限られていることに注意が必要です。

各がん種におけるBRCA1/2病的バリアント / HRD陽性例におけるPARP阻害薬がもたらす治療インパクト

次に、臨床試験の結果から、BRCA1/2病的バリアントの有無やHRDの状態が治療効果にどの程度影響するのか、がん種ごとにみていきます。

卵巣癌

BRCA病的バリアント陽性で、新たに進行卵巣癌であると診断され、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法で奏効が維持されている高異型度漿液性または高異型度類内膜卵巣癌を対象として、オラパリブの有効性をプラセボと比較したSOLO1試験4)では、7年時点の全生存率がオラパリブ群67.0%、プラセボ群46.5%という結果でした。

PAOLA-1試験5,6)は、新たに進行卵巣癌であると診断され、白金系抗悪性腫瘍剤、タキサン系抗悪性腫瘍剤およびベバシズマブによる初回化学療法で奏効が維持されている高異型度漿液性または類内膜卵巣癌患者を対象として、オラパリブとベバシズマブ併用投与の有効性をプラセボとベバシズマブ併用投与と比較しており、より臨床に近い試験デザインとなっています。BRCA病的バリアント陽性例では5年全生存率がオラパリブとベバシズマブ併用群73.2%、プラセボとベバシズマブ併用群53.8%であり、BRCA病的バリアント陰性であってもHRD陽性であれば、5年生存率がオラパリブとベバシズマブ併用群54.7%、プラセボとベバシズマブ併用群44.2%という結果になりました。

さらに、初回の手術で残存腫瘍がない状況まで切除できたlower risk群に関しては、HRD陽性であれば5年全生存率が88.3%という結果も出ていることから、完全切除を目指しながら、BRCA1/2病的バリアントの有無やHRDの状態を評価して治療を選択することが望ましいと考えられます。

前立腺癌

アビラテロンもしくはエンザルタミドまたはその両剤の治療歴のある相同組換え修復関連遺伝子の病的バリアント陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)患者を対象として、オラパリブの有効性を、エンザルタミドまたはアビラテロンと比較したPROfound試験7)では、BRCA1BRCA2ATMのうち1つ以上に病的バリアントを有する患者(コホートA)とその他の12遺伝子の1つ以上に病的バリアントを有する患者(コホートB)に分けて解析を行いました。その結果、コホートAでは、オラパリブ群で画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)の有意な延長がみられ[ハザード比(HR)0.34、95%信頼区間(CI)0.25~0.47]、BRCA病的バリアント陽性例に限定すると差が拡大しました(HR 0.22、95%CI 0.15~0.32)。

薬物療法歴のないmCRPC患者を対象として、オラパリブとアビラテロン併用投与の有効性を、プラセボとアビラテロン併用投与と比較したPROpel試験8)は、PROfound試験と比較してより早い段階でPARP阻害薬を使用しています。BRCA病的バリアント陽性例では、オラパリブとアビラテロン併用群が、プラセボとアビラテロン併用群と比較して、rPFS(HR 0.23、95%CI 0.12~0.43)と全生存期間(HR 0.39、95%CI 0.16~0.86)のいずれにおいても有意な延長を示しました。

オラパリブとアビラテロンの併用療法を早期で使うことを考えた場合、実施タイミングが限定されるFoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルをコンパニオン診断として実施するか、がん遺伝子パネル検査として実施するか、議論の余地があります。

乳癌

OlympiA試験9)の結果により、術前または術後化学療法歴のあるgBRCA病的バリアント陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌患者にもオラパリブが使えるようになりましたが、維持療法が1年であることがポイントと考えています。術後薬物療法としてのオラパリブの有効性について、3年無浸潤疾患生存率(DFS)がオラパリブ群で85.9%、プラセボ群で77.1%となり、オラパリブの維持療法は1年ですが、無再発の状態が長く維持されていました。3年全生存率(OS)もオラパリブ群で92.0%、プラセボ群では88.3%とプラセボ群でも高く、その差は3.7%となりますが、プラセボ群では11.7%の患者が亡くなられている状態をオラパリブ投与により8.0%まで下げることを意味しますので、治療のインパクトは小さくないと感じています。

膵癌

POLO試験10)では、オラパリブ群がプラセボ群と比較し、無増悪生存期間について有意な延長を示し(HR 0.53、95%CI 0.35~0.82)、PARP阻害薬の維持療法により比較的長期に奏功が得られています。オラパリブ群ではOSへの寄与が明確に示されていない部分があるものの、膵癌治療におけるPARP阻害薬の機会を生かすことは重要であり、gBRCAのステイタスを把握することは不可欠であると考えています。

このように、BRCA1/2病的バリアントの有無やHRDの状態が治療効果に大きく影響することが報告され、それぞれのがんの治療成績も向上していることから、遺伝医療を治療の中に組み込んでいく意義は非常に大きいと考えています。

 卵巣癌におけるMyChoice CDxを用いたtBRCA1/2 (腫瘍組織)、HRD評価

BRACAnalysis®診断システムおよびMyChoice®診断システムを用いて、Ⅲ/Ⅳ期の進行卵巣癌患者におけるBRCA1/2病的バリアント陽性率を調べたCHRISTELLE試験11)では、MyChoice®診断システムで検出されたtBRCA病的バリアント陽性率が26.8%、BRACAnalysis®️診断システムで検出されたgBRCA病的バリアント陽性率は21.5%でした。gBRCA病的バリアントおよびtBRCA病的バリアントの一致性をみたところ、gBRCA病的バリアント陽性のうち2例(全体の1%)ではtBRCA病的バリアントが検出されませんでした。BRACAnalysis®診断システムでのgBRCA変異を検出したにも関わらず、MyChoice®診断システムではtBRCA変異が検出されなかったケースがありました。これはMyChoice®診断システムがNGS法、つまりショートリードシーケンシングのため、染色体の大きな欠失について検出漏れを生じたためと考えています。がん遺伝子パネル検査も同じ手法を採用していることから染色体の大きな欠失を適切に検出できない可能性について留意する必要があります。遺伝学的検査としてエクソン単位の欠失の評価を進めるために、MLPA法も重要であり、既存のコンパニオン診断薬の中ではBRACAnalysis®診断システムでないと検出が難しい場合があります。

EBM診療データベースから得られた、卵巣癌におけるBRCA/HRD検査数の推移からは、初回化学療法後の維持療法に対するオラパリブの承認によりBRCA検査数が増加し、HBOC診断目的としても保険適用となったことで再び増加する傾向がみられました。オラパリブ/ベバシズマブ併用療法(PAOLAレジメン)の承認以降は、PAOLAレジメンを考慮してHRD検査を先行するケースが多くなっています。ただし、BRCA検査も一定数実施されていることから、必要に応じてどちらも実施されていると考えられます。

消化器癌におけるHBOCとの関わり

近年、消化器癌とBRCA1/2病的バリアントの関連が報告されています。日本全国のバイオバンクからデータを取得した14がん種の患者63,828名と対照37,086名を対象に、gBRCA1/2病的バリアントの有無とがんの生涯累積リスクを調べた結果12)BRCA1は胆道癌と、BRCA2では食道癌と、BRCA1/2は胃癌と関連していました(図1)。さらに、7つの関連癌の家族歴と病的バリアント陽性者の割合の関連を調べると、胆道癌、女性の乳癌、卵巣癌および前立腺癌の患者では、がんの家族歴の増加に応じて、病的バリアント陽性者の割合が増加することが報告されているため12)、消化器癌であっても家族歴の聴取が重要となる可能性があります。

図1: 3がん種の生涯累積リスク
がんゲノム医療時代のHBOC診療

2023年に「Guardant360® CDx がん遺伝子パネル」と「GenMineTOP® がんゲノムプロファイリングシステム」が保険収載され、保険適用のがん遺伝子パネル検査が5種類になりました(表2)。「GenMineTOP® がんゲノムプロファイリングシステム」は腫瘍組織と血液をペアで調べる検査であり、対象となる遺伝子数が多い、RNAパネルを含むという特徴があります。

表2: 保険適用されている5種類のがん遺伝子パネル検査

標準治療終了見込み後に、腫瘍組織のみを調べる遺伝子検査を行う場合、「germline findings」すなわち生殖細胞系列由来が推定される病的バリアント(PGPV)が見つかった後に、遺伝学的検査による確認に至る割合が低い13)という報告があります。

一方、卵巣癌では初回治療中にMyChoice®診断システムを実施できるため、tBRCA病的バリアントが検出された場合に、遺伝学的検査であるBRACAnalysis®診断システムの実施によりHBOCの確定診断につなげやすいといえます。BRCA1/2遺伝学的検査やがん遺伝子パネル検査により得られるゲノム情報は、治療と遺伝医療の両面で有用であるため、今後はより早期のタイミングで実施されることが期待されます。

コンパニオン診断の保険適用範囲拡大やがん遺伝子パネル検査の登場により、HBOCの診断に至るプロセスは多様化しています。同じBRCA遺伝学検査であっても、検査を受ける方の検査に対する思いや結果の受け止め方は全く異なっています。検査を行う医療者は、検査を受ける方の立場や不安だけでなく、ご家族のケアも含めてカウンセリングを進めていくことが求められます。

座長からのメッセージ

2018年にBRCA遺伝学的検査がコンパニオン診断として承認されて5年が経ち、HBOCのみならずがんの診療はゲノム情報を活用することで大きく進歩してきました。本日はHBOC診療だけでなく、BRCAと消化器癌との関連など幅広くお話しいただきました。保険診療制度や治療の現場では、今なお多くの課題があることもお示しいただきましたが、先生方には適切な保険診療と医療の充実にぜひ声を上げていただければと思います。織田先生、ありがとうございました。

【出典】
1) Jonsson P, et al. Nature. 2019 Jul;571(7766):576-579.
2) Konstantinopoulos PA, et al. Cancer Discov. 2015 Nov;5(11):1137-54.
3) Abida W, et al. JCO Precis Oncol. 2017 Jul:2017:PO.17.00029.
4) DiSilvestro P, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 20;41(3):609-617.
5) ESMO 2022 LBA29
6) ESMO 2023  32O
7) de Bono J, et al. N Engl J Med. 2020 May 28;382(22):2091-2102.
8) Clarke NW, et al. NEJM Evid. 2022; 1(9).
9) Tutt ANJ, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 24;384(25):2394-2405.
10) Golan T, et al. N Engl J Med. 2019 Jul 25;381(4):317-327.
11) Oda K, et al. S Cancer Sci. 2023 Jan;114(1):271-280.
12) Momozawa Y, et al. JAMA Oncol. 2022 Jun 1;8(6):871-878.
13) Minamoto A, et al. J Hum Genet. 2022 Oct;67(10):557-563.

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