第54回日本膵臓学会大会 
ランチョンセミナー (2023年7月開催)

座長: 北野 雅之 先生
和歌山県立医科大学 第二内科 教授 
演者: 藤井 努 先生
富山大学附属病院 消化器・腫瘍・総合外科 教授 

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膵癌治療においては手術と薬物療法、放射線治療等を組み合わせた集学的治療が行われており、近年では遺伝子やバイオマーカーを用いた診断や治療を行う「precision medicine」が注目されています。

本講演では、多数の臨床試験を主導し多くのエビデンスを創出しながら、消化器外科学会の理事をはじめ学会活動にも精力的に取り組まれている藤井先生に、膵癌における集学的治療とBRCA1/2遺伝子検査の位置づけについてお話しいただきました。


富山大学附属病院の膵癌診療体制

富山大学附属病院(以下、当院)は、2018年9月に全国初の膵臓・胆道専門センターである「膵臓・胆道センター」を設立しました。本センターには現在、肝胆膵外科高度技能医が8名在籍しており、消化器内科・消化器外科・放射線診断科・放射線治療科・臨床腫瘍部・病理部の6部門が連携して高度医療を提供しています。

本センターへの紹介患者数は、2023年7月現在、設立から4年半で計1,400名を超え、富山県内に限らず全国から患者が受診しています。膵切除手術は年間100例前後行っており、ロボット支援下膵切除術の膵体尾部切除術(DP)58例、膵頭十二指腸切除術(PD)5例の実績があります。

膵癌の化学療法は第二外科と消化器内科で実施しており、切除可能膵癌(R)、切除可能境界膵癌(BR)、局所進行膵癌(UR-LA)の場合は第二外科が化学療法を実施します。遠隔転移を有する切除不能膵癌(UR-M)の場合は、腹膜播種(P)のみのUR-Mは第二外科、その他のUR-Mは消化器内科が化学療法を実施します。

エビデンスの構築により新たな膵癌治療を創っていくことが重要であるという考えのもと、積極的に臨床試験や治験を実施しており、現在では20以上の試験が行われています(表1)。

表1 膵臓・胆道センターで行っている臨床試験・治験(2023年7月時点)

膵癌の集学的術前管理

膵癌治療では、外科手術、薬物療法、放射線治療等を組み合わせた集学的治療が行われています。近年では、分子標的薬の登場に伴い、遺伝子変異を確認して治療選択をすることで、高い効果を発揮することがわかってきました。

例えば、BRCA遺伝子変異を有する膵癌は、変異のない膵癌と比較して有意に予後不良である一方で、プラチナ製剤を含む化学療法により予後が改善すると報告されています1)。当院でも、BRCA遺伝子変異を有する患者に対してオキサリプラチン・イリノテカン塩酸塩・フルオロウラシル・レボホリナートカルシウム併用(FOLFIRINOX)療法が著効し、外科的切除(conversion手術)が可能となった症例を複数経験しており、BRCA遺伝子変異を確認することの重要性を感じています。

また当院を含む2施設において、UR-LAに対するゲムシタビン・ナブパクリタキセル併用(GnP)療法導入とその後のテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)投与を伴う化学放射線療法(CRT)における外科的切除後の予後因子を評価したところ、腫瘍マーカーであるCA19-9の正常化と予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index: PNI)が独立した予後因子であることがわかりました2)

そのため進行膵癌に対しては、Multidetector Computed Tomography(MDCT)やMRI等の画像診断や腫瘍マーカーの測定、疼痛管理といった一般的な術前管理に加えて、当院ではBRCA遺伝子検査や栄養管理も含めた「集中的術前管理」を行っています(図1)。

図1 進行膵癌に対する集中的術前管理
膵癌におけるBRCA遺伝学的検査

BRCA遺伝子変異にはgermline mutationとsomatic mutationがあり、germline mutationは性別に関係なく親から子に50%の確率で受け継がれます。膵癌では5.2%にBRCA遺伝子変異が認められ、3分の2がgermline mutation、3分の1がsomatic mutationであったと報告されています4)BRCA遺伝子変異を有する場合、膵癌だけでなく乳癌や卵巣癌、前立腺癌の発症リスクが高まるため、診断後には早期発見のためのサーベイランスや血縁者へのフォローが重要となります。

生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異を調べるBRCA遺伝学的検査(BRACAnalysis® 診断システム)は、2021年12月にPARP阻害剤オラパリブの膵癌患者への適応を判定するためのコンパニオン診断として保険適用となりました。検査の実施にあたっては、①検査の対象、②検査のタイミング、③患者への説明の3点がポイントとなります。

膵癌においてBRCA遺伝学的検査を実施する際のポイント

PARP阻害剤オラパリブの膵癌患者への適応を判定するためのコンパニオン診断には、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異を調べるBRCA遺伝学的検査(BRACAnalysis® 診断システム)を用います。検査の実施にあたっては、①検査の対象、②検査のタイミング、③患者への説明の3点がポイントとなります

①検査の対象

オラパリブの効能又は効果が「BRCA遺伝子変異陽性の治癒切除不能な膵癌における白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法後の維持療法」であることから、BRCA遺伝学的検査の対象は「発症年齢にかかわらず、治癒切除不能な膵癌と診断された患者」であり「オラパリブの使用を検討する患者」となります。

本検査の目的はオラパリブの適応可否の判断ですが、BRCA遺伝子変異を有する膵癌ではプラチナ製剤を含む化学療法の効果が高いことから、得られた結果はオラパリブ投与前の初回治療にプラチナ製剤を含む化学療法を選択するか否かの判断にも有用であると私は考えています。

②検査のタイミング

BRCA遺伝学的検査を実施するタイミングについては、日本膵臓学会から「初回化学療法のレジメンが、その後のオラパリブ維持療法にも影響し得ることから、初回化学療法を実施する前にBRCA1/2遺伝学的検査の結果が得られていることが望ましい。」という見解が示されています5)。米国のNational Comprehensive Cancer Network (NCCN)ガイドライン(Version2.2023)でも、転移ありの場合は初回化学療法の開始前に遺伝子検査(生殖細胞系列遺伝子検査、腫瘍組織の遺伝子プロファイリング)を実施することが推奨されています6)

当院では、化学療法の適応となるBR、UR-LA、UR-Mの場合は、初診時に採血を行い、BRCA1/2遺伝学的検査(BRACAnalysis® 診断システム)を実施しています。10~14日程度で結果がわかり、陽性だった場合は遺伝カウンセラーによるフォローと、FOLFIRINOX療法を開始しています。内科部門との連携により、初診からおよそ10日以内にMRIやPET、EUS-FNA、審査腹腔鏡まで実施できる体制を整えています(図2)。

図2 富山大学附属病院における進行膵癌の化学療法開始までの流れ

③患者への説明

BRCA1/2遺伝学的検査の結果は、患者本人だけでなく血縁者に影響を及ぼす可能性もあるため、検査前には患者に十分な説明を行うことが求められます。

当院では、BRCA1/2遺伝子の働き等の一般的事項だけでなく、プラチナ製剤やPARP阻害剤の効果についても説明しています。検査結果により化学療法の選択肢が変わることをお伝えすることで、検査を受け入れていただけることが多いと感じています。さらに、検査結果が陽性だった場合は、遺伝カウンセリングで十分なフォローを行っています。

当院におけるBRCA1/2遺伝学的検査の実績と膵癌化学療法の方針

当院では膵癌に対して年間50件前後のBRCA1/2遺伝学的検査を実施しており、今年はさらに増える見込みです。検査の陽性率は2.5%程度であり、陽性の場合は初回治療にFOLFIRINOX療法を選択し、陰性の場合はGnP療法を選択しています(図3)。陽性例に対し、FOLFIRINOX療法で病勢が制御できている場合は、維持療法としてオラパリブを使用します。適正使用ガイドには、オラパリブ投与に際し注意が必要な患者や併用に注意が必要な薬剤等の情報がまとまっており処方時の参考になります。

遺伝子変異に応じた薬剤選択は効果が高く、conversion手術が可能となる場合もあることから、膵癌化学療法に携わる外科医は積極的に取り組む意義があると考えています。

図3 富山大学附属病院における膵癌化学療法の方針
座長からのメッセージ

藤井先生とは共同研究をふくめて公私ともにお付き合いをさせていただいています。

本講演では、外科医の立場から膵癌の集学的治療について、具体的な化学療法の適応も含めてお話しいただきました。初診時にBRCA1/2遺伝学検査を実施しているという話には驚きましたが、検査のタイミングを逃さないためにも有効な方法であると思います。明日からの診療に役立つ興味深いご講演をありがとうございました。

【出典】
1)     Blair AB, et al. J Am Coll Surg. 2018 Apr;226(4):630-637.
2)     Igarashi T, et al. Ann Gastroenterol Surg. 2022 Aug 16;7(1):157-166.
3)     Klein AP, et al. Cancer Res. 2004 Apr 1;64(7):2634-8.
4)     Sokol ES, et al. JCO Precis Oncol. 2020;4:442-465.
5)     日本膵臓学会:膵癌患者に対するコンパニオン診断としてのBRCA1/2遺伝学的検査実施に関する見解(2021年1月4日付)
6)     National Comprehensive Cancer Network. NCCN Guidelines Version 2.2023, Pancreatic Adenocarcinoma

ニュース

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    2024年2月22日(木)から開催される第21回日本臨床腫瘍学会学術集会の情報を掲載しました。

  2. 2024年1月30日

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