第65回日本婦人科腫瘍学会学術講演会 
ランチョンセミナー (2023年7月開催)

座長: 岡本 愛光 先生
東京慈恵会医科大学 婦人科診療部長/教授 
演者: 温泉川 真由 先生
がん研究会 有明病院 婦人科副部長/総合腫瘍科医長 

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進行卵巣癌は再発率が高く予後不良であるとされてきましたが、薬剤の進歩により治療の選択肢が増加し、予後は改善されてきています。その薬剤の適応を判断するコンパニオン診断として、腫瘍組織を使用する相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency: HRD)検査や正常細胞を使用するBRCA1/2遺伝子検査が積極的に活用されています。一方で、これらのHRD検査やBRCA1/2遺伝子検査には課題もあり、より適切な治療を患者に提供するためには課題を理解することが重要と言われています。

本講演では「進行卵巣がんに対するHRD検査の現状と課題、薬物治療へのインパクト」についてがん研究会 有明病院の婦人科と総合腫瘍科を兼任し、婦人科メディカルオンコロジストとしてご活躍されている温泉川 真由先生にご解説いただきました。


進行卵巣癌におけるHRD検査と治療選択

進行卵巣癌のコンパニオン診断として、癌組織を使用し腫瘍細胞のBRCA遺伝子変異(tBRCA)とゲノム不安定性を評価するMyChoice®診断システムや、血液を用いて生殖細胞系列のBRCA(gBRCA)遺伝子変異を検出するBRACAnalysis®診断システム等があります。進行卵巣癌治療では、これらの検査結果からどのような維持療法を行うか選択しています(図1)。

図1: コンパニオン診断を用いた維持療法における治療選択
コンパニオン診断の必要性

ニラパリブの効能または効果のひとつである「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」のように、コンパニオン診断を必須としない薬剤はいくつかあります。しかし、維持療法開始前にコンパニオン診断を実施する必要性や役割について、3つの点から考えてみたいと思います

1. 高悪性度漿液性癌及びその他の組織型における治療選択

高悪性度漿液性癌患者等を対象としたPAOLA-1試験、PRIMA試験、SOLO1試験、VELIA試験(表1)におけるサブグループ解析の結果によると、腫瘍細胞におけるBRCA遺伝子の変異やHRDの状態によってPARP阻害剤の効果が異なることが示されました1)。コンパニオン診断を行うことで、治療効果が高い患者にPARP阻害剤を投与することができるため、高悪性度漿液性癌及び高悪性度類内膜癌の治療選択において有用であるといえます。

表1. PARP阻害剤を用いた臨床試験

高悪性度漿液性癌でgBRCA1/2遺伝子変異を有する割合は、海外では16%、国内では28%となっていますが2,3)、その他の組織型でもgBRCA1/2遺伝子変異はみられるため、gBRCA1/2遺伝子変異保有率が低い組織型に対してもPARP阻害剤が有効なケースがあります。また、HRD陽性率も同様に、高悪性度漿液性癌で45%あるいは67%と他の組織型に比べて高いですが、その他の組織型でもHRD陽性が認められています4,5)。がん研究会 有明病院(以下、当院)における卵巣癌、卵管癌、腹膜癌を対象としたMyChoice®診断システムの実績でも同様の傾向がみられており、高悪性度漿液性癌患者のうち68%がHRD陽性を示しました。また、割合は低いものの、その他の組織型でもHRD陽性が認められました。以上のことから、高悪性度漿液性癌や高悪性度類内膜癌の治療選択に有用であるだけではなく、他組織型においてもPARP阻害剤の効果が高い患者の拾い上げにつながると考えられます。

2. 再発後および後治療への影響を踏まえた治療選択の指標

非粘液性の上皮卵巣癌患者を対象としたPARP阻害剤再投与の有効性を検証したOReO試験では、BRCA遺伝子変異のある集団と変異のない集団に分けられており、その適格基準も異なります6)。また、プラチナ製剤感受性再発卵巣癌患者に対してオラパリブの維持療法の有効性を検討したSOLO2試験情報を用いて行われた後解析では、オラパリブ投与群はプラセボ群に比べて試験治療終了後に行われた治療、特にプラチナ製剤併用療法の効果が低いことが示されました7,8)。本結果は、PARP阻害剤の使用が後治療の効果に影響を及ぼした可能性があり、原因のひとつとして相同組換え修復機能の回復やDNAの複製ストレスの緩和等による PARP阻害剤の耐性獲得が考えられています。

PARP阻害剤の後治療への影響については、さらなるエビデンスの蓄積を待ってから判断したいと考えています。しかし、これらの試験結果を臨床で活かすうえでは、各試験で適格基準として設定されているBRCA遺伝子変異の有無の情報が必要となるため、治療判断を行ううえでコンパニオン診断は重要な指標になると考えています。

3. MyChoice®診断システムとBRACAnalysis®診断システムを併用することの重要性

BRCA遺伝子変異やHRDの有無を調べることは、効果予測のためのバイオマーカーとして個別化医療に役立つと考えています。その両方を検査する必要性、すなわちMyChoice®診断システムとBRACAnalysis®診断システムを両方実施する必要があるのかという疑問について考えてみます。tBRCA遺伝子変異がある患者のうち、gBRCA遺伝子に変異がある患者の割合は、数値にばらつきはあるものの7~8割程度5,9,10)と報告されており、当院のデータでも65.1%でした(表2)。すなわち、腫瘍細胞のBRCA遺伝子変異は必ずしもgBRCA遺伝子変異と一致しないということがわかります。生殖細胞系列の遺伝学的検査により遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)を診断することは、血縁者フォローの点からも重要であるため、MyChoice®診断システムだけでなくgBRCA遺伝子変異を検出できるBRACAnalysis®診断システムを実施することは重要と考えます。

表2 卵巣癌の腫瘍細胞におけるgBRCA遺伝子変異の割合

術前化学療法実施症例におけるHRD検査のタイミングと検査結果に与える影響

卵巣癌治療で術前化学療法を実施している割合は2割程度と報告されており11)、進行卵巣癌では3分の1程度と推測されます。術前化学療法を行う場合、HRD検査に用いる検体には、治療を開始する前の生検材料あるいは中間腫瘍減量術での手術材料が挙げられ、それぞれ利点と欠点があります(表3)。

表3 術前化学療法実施時の検体の利点と欠点

進行卵巣癌における術前化学療法への反応性(Chemotherapy Response Score:CRS)を、CRS1:化学療法への反応なしまたは軽度の反応がある、CRS2:中等度の反応がある、CRS3:完全もしくはほぼ完全な奏効を示す―の3段階で評価した場合、CRS3が約25%と報告されています12)。中間腫瘍減量術時の手術材料は、遺伝子解析に必要な癌細胞の含有量が非常に少なく検体不良になるリスクがあり、検査結果に腫瘍細胞におけるHRDの変化が正確に反映されていない可能性があることに留意する必要があります。

また、中間腫瘍減量術後にベバシズマブとオラパリブの併用維持療法(PAOLA-1レジメン)を想定してHRD検査を行う場合、検査に数週間を要するためベバシズマブ併用のタイミングを逃してしまう可能性があります。そのため、がん研究会 有明病院(以下、当院)では、再発のリスクが高くPAOLA-1レジメンの適応が想定される場合は、できるだけ治療開始前の生検材料を用いてHRD検査を行うことを推奨しています。

一方、進行上皮性卵巣癌患者41例に対し化学療法前後にHRD検査(AmoyDx® HRD-Focus panel)を実施したところ、3例で腫瘍におけるBRCA遺伝子変異に変化(変異あり→なし2例、変異なし→あり1例)があり、腫瘍ゲノム不安定性の状態(GIS)に関しては10例に変化があったと報告されています13)。したがって検体を採取するタイミングによって検査結果が異なる、すなわち、治療選択が変わってくる可能性があります。今後、PARP阻害剤の効果との比較も含めてさらに検証が進むことで、より適切な個別化医療につながると考えています。

gBRCA遺伝子変異の位置や種類がPARP阻害剤の効果に与える影響

当院での症例や臨床試験の結果を見ると、BRCA遺伝子変異がありPARP阻害剤の効果が期待できる場合でも、投与中の増悪や効果が乏しい症例が一定数存在します。PAOLA-1試験の後方視的解析では、BRCA遺伝子変異が生じた位置や変異の種類が無増悪生存期間へ与える影響を検討しています。その結果、遺伝子変異がDNA-binding domainやRING domainに生じている場合は無治療に比較しPARP阻害剤維持療法の有効性を認めましたが、BRCA1 C-Terminal domainに変異が生じた場合はPARP阻害剤維持療法の有効性が確認されませんでした。また、変異の種類によってもPARP阻害剤の効果に差が認められ、ミスセンス変異において無治療に比較し、PARP阻害剤維持療法の有効性が乏しいことが明らかになりました14)。このことからBRCA遺伝子変異が認められていても、変異が生じた位置や変異の種類によってPARP阻害剤の効果に違いが生じる可能性があります。今後このような情報が蓄積されることで、より適切な治療選択に活用できることが期待されます。

PARP阻害剤を使用する時代において手術の意義は下がるのか?

PARP阻害剤の登場により卵巣癌の治療成績が向上したなかでの手術の意義について考えてみます。PARP阻害剤登場前における臨床試験の後方視的解析によると、手術で腫瘍を完全切除した場合、無増悪生存期間および生存期間が延長しており、手術は重要な予後因子であるといえます15)。SOLO1試験の後解析でもオラパリブ維持療法群において、手術で完全切除した群と非完全切除の群を比較すると、完全切除群での予後が良好であり16)、PARP阻害剤を使用する時代においても手術は重要な意義をもっているといえます。

HRD陰性(HRP)進行卵巣癌の治療選択

現在HRPの進行卵巣癌の治療選択肢としてニラパリブ単剤、ベバシズマブ単剤、経過観察がありますが、治療選択の参考となる臨床試験データやバイオマーカーに関する情報が乏しいです。

PRIMA試験やPAOLA-1試験ではMyChoice®診断システムでゲノム不安定性(GI)スコアが42以上の場合にHRD陽性としていたため、現在、HRD陽性のカットオフ値は42が使用されています。しかし、VELIA試験(表1)ではカットオフ値に33点が使用されています17)。すなわち、HRPであってもGIスコアが33以上の場合はPARP阻害剤の効果が期待できる可能性があります。

進行卵巣癌患者の血清CA125値を使用したCA-125 elimination rate constant k (KELIM)値についての報告が多数でています。特に薬剤感受性のマーカーとしてKELIMを使用した報告があります。例えばKELIM 1未満の「unfavorable」ではベバシズマブの効果が高く、KELIM 1以上の「favorable」では効果が低いと報告されています18)。PARP阻害剤については逆の傾向を示しており19)、KELIMがニラパリブとベバシズマブの使い分けの指標となる可能性があります。これらの情報を活用することでHRPの進行卵巣癌患者に対するより適切な治療の提供につながることを期待しています。

座長からのメッセージ

HRD検査の現状と課題に関して、最新情報も含めわかりやすくご解説いただきました。後治療への影響や治療費の面など患者さんが不利益を被ることがないように、初回治療の結果等を確認しながら治療選択していくことが必要と感じました。内容が濃く、示唆に富む素晴らしいご講演をありがとうございました。

【引用文献】
1) R. E. Miller, et al. Annals of Oncology 2020 Dec; 31(12): 1606-1622.
2) Barbara M Norquist, et al. JAMA Oncology 2016 Apr; 2(4): 482-490.
3) T. Enomoto, et al. International Journal of Gynecological Cancer 2019 Jul; 29(6): 1043-1049.
4) J. M. Cunningham, et al. Scientific Reports 2014 Feb; 4: 4026.
5) K. Oda, et al. Cancer Science 2023 Jan; 114(1): 271-280.
6) ESMO 2021, abstract 2242
7) ESMO 2020, abstract 813MO
8) J. S. Frenel, et al. Annals of Oncology 2022 Oct; 33(10): 1021-1028.
9) C. Marchetti, et al. Gynecologic Oncology 2020 Sep; 158(3): 740-746.
10) C. Callens, et al. The Journal of the National Cancer Institute 2021 Jul; 113(7): 917-923.
11) 日本産科婦人科学会 2020年患者年報
12) Steffen Böhm, et al. Journal of Clinical Oncology 2015 Aug; 33(22): 2457-2463.
13) ESGO 2022; Abstract EP312/#486
14) S I Labidi-Galy, et al. Annals of Oncology 2023 Feb; 34(2): 152-162.
15) Andreas du Bois, et al. Cancer 2009 Mar; 115(6): 1234-1244.
16) Paul DiSilvestro, et al. Journal of Clinical Oncology 2020 Oct; 38(30): 3528-3537.
17) Robert L. Coleman, et al. The New England Journal of Medicine 2019 Dec; 381: 2403-2415.
18) Benoit You, et al. Journal of Clinical Oncology 2022 Dec; 40(34): 3965-3974.
19) Benoit You, et al. Journal of Clinical Oncology 2023 Jan; 41(1):107-116.

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