第47回⽇本遺伝カウンセリング学会学術集会 
イブニングセミナー (2023年7月開催)

座長: 小﨑 健次郎 先生
慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター 教授 
演者: 織田 克利 先生
東京大学大学院医学系研究科 医用生体工学講座 統合ゲノム学分野 教授
東京大学医学部附属病院 ゲノム診療部 部長 

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近年、腫瘍組織を用いた遺伝子検査の普及により、腫瘍組織でBRCA1/2(tBRCA)病的バリアントが見つかり、BRCA1/2遺伝学的検査による確認を経て遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診断に至るケースが増えています。遺伝カウンセリングでは、tBRCAと生殖細胞系列BRCA1/2(germline BRCA:gBRCA)の違いを理解したうえで、検査の背景やクライエントの結果の受け止め方に合わせた対応が求められます。

本講演では、産婦人科専門医/指導医、婦人科腫瘍専門医/指導医、臨床遺伝専門医など多くの専門医資格をもち幅広い分野に精通しながら、がん遺伝子パネル検査「GenMineTOP がんゲノムプロファイリングシステム」の開発も主導された織田先生に、腫瘍組織を用いた遺伝子検査における遺伝カウンセリングの留意点についてお話しいただきました。


HBOCの診断に至る契機の多様化

HBOCは、BRCA1あるいはBRCA2の生殖細胞系列の病的バリアントに起因する乳癌および卵巣癌をはじめとするがんの易罹患性症候群1)で、BRCA1/2遺伝学的検査により診断されます。がん遺伝子パネル検査などの腫瘍組織を用いた遺伝子検査の普及により、HBOCの診断に至る契機が多様化しています(1)。

保険診療の場合は大きく以下の3つに分けられます。

A.BRCA1/2遺伝学的検査(BRACAnalysis?診断システム)を実施

BRCA1/2遺伝学的検査はHBOCの診断とコンパニオン診断の2つの目的で実施されます。乳癌において、HBOCの診断目的では年齢や家族歴等の条件があり、コンパニオン診断目的では再発症例や再発高リスク症例に対象が限定されています。一方、卵巣癌は、HBOCの診断目的ではすべての卵巣癌でいつでも検査が可能であり、コンパニオン診断目的では国際産婦人科連合(FIGO)進行期分類III期またはIV期(以下、III/IV期)の場合に検査が可能です。前立腺癌と膵癌は、HBOCの診断目的での検査はできず、コンパニオン診断としての要件を満たした場合に検査が可能です。

B.コンパニオン診断としてMyChoice?診断システムを実施してtBRCA1/2病的バリアントを検出

III/IV期の初回進行卵巣癌や一定の条件を満たした再発卵巣癌では、コンパニオン診断として、tBRCA1/2と相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency:  HRD)の状態を調べるMyChoice?診断システムも実施可能です。tBRCA1/2病的バリアント陽性の場合は、確認のためのBRCA1/2遺伝学的検査(BRACAnalysis?診断システム)も保険適用となります。(註:シングルサイトで検査を行う場合は自費です。)

C.がん遺伝子パネル検査を実施してtBRCA1/2病的バリアントを検出

がん遺伝子パネル検査は、対象が標準治療終了後(見込みを含む)患者に限定されるものの、固形がんであればがん種を問わず実施可能です。腫瘍組織と血液(非腫瘍細胞)の両方を調べる検査と、腫瘍組織のみ、あるいは血液(Liquid biopsy)から腫瘍組織における遺伝子を解析する検査があります。前者は検出されたtBRCA1/2病的バリアントが生殖細胞系列由来(gBRCA)と体細胞由来(somatic BRCA:sBRCA)のどちらであるか区別可能ですが、後者は通常自費でのBRCA1/2遺伝学的検査あるいはシングルサイト検査による確認が必要です。

上記以外に、自由診療として未発症者がBRCA1/2遺伝学的検査やMulti-gene panel検査(Germline)を行う、あるいは血縁者がシングルサイト検査を行う、全ゲノム解析研究等でBRCA1/2病的バリアントが検出される場合などがあります。

図1: HBOCの診断に至る契機の分類
(註: 本発表後、2023年7月24日にGuardant 360 (Liquid biopsy), 同8月1日にGenMineTOP がんゲノムプロファイリングシステム(Tumor/Normalペア検体)が保険適用となりました。)

HBOCの診断契機の多様化に伴い、HBOCと診断される症例が増加しているだけでなく、がん生殖や産科など多くの部署との連携が不可欠となっています(図2)。遺伝カウンセリングを行う際には、検査結果に対するクライエントの受け止め方は様々である点に留意する必要があります。自由診療の場合は、HBOCの診断目的で検査を受けることが多いため、クライエントは検査の意義を理解し、結果を聞く心構えができています。一方で、保険診療でコンパニオン診断やがん遺伝子パネル検査を受ける場合は、治療のために必要な検査という認識が強く、HBOCの診断につながる可能性を十分に想定できていないことがあります。腫瘍組織を用いた遺伝子検査であっても、検査の意義や限界について十分に説明したうえで、患者の意思を確認することが求められます。

図2: HBOC診療に関わる部署(東京大学医学部附属病院の例)
RRSO/RRMにおける遺伝カウンセリングの意義2)

HBOC診断後の対応のひとつに、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)やリスク低減乳房切除術(RRM)があります。東京大学医学部附属病院(以下、当院)では、RRSO/RRMを受ける方に対して、メリット・デメリット表(図3)を作成してクライエントの意思決定ガイドとして活用しています。RRSO/RRMを受けるメリットや受けないデメリットはクライエントにとってイメージしやすい部分ですが、イメージしにくい「受けるデメリット」「受けないメリット」を明確にしておくことが重要です。

図3: メリット・デメリット表(意思決定ガイド)

2020年4月から2022年5月までにリスク低減手術を希望したHBOC既発症者12例に対して、乳腺・内分泌科および女性外科による遺伝カウンセリング(保険診療)に加え、ゲノム診療部で遺伝カウンセリング(自費)を実施した結果をご紹介します。クライエントが記入した内容(図4)をまとめると、「受けるデメリット」にはボディイメージの変化や術後の体への影響などがあり、「受けないメリット」には手術を受けなくてもがんにならないまま過ごせる可能性などがありました。

日本におけるBRCA1/2病的バリアントの有無と卵巣癌診断時の年齢分布を調査したところ、BRCA2病的バリアント陽性の場合は40歳未満で卵巣癌を発症した患者はいなかった3)という報告もあることから、手術を受けるのか受けないのかの2択ではなく、手術を受けるタイミングの選択も含めて、遺伝カウンセリングで情報を整理する必要があります。

図4: メリット・デメリット表にクライエントが記入した内容

メリット・デメリット表を作成することは、術前にクライエントが抱える課題や疑問の顕在化や、術後のクライエント自身の振り返りの手がかり、医療スタッフの適切なフォローアップにつながります。通常診療とは別に遺伝カウンセリングの機会を設定することは、十分な時間を確保したうえでクライエントの価値観や不安を言語化できることや、遺伝診療部門を含めた複数の視点でアセスメントできるといった利点がありました。  今後、HBOCの診断症例の増加に伴い、遺伝カウンセラーの果たす役割はさらに大きくなることが想定されます。続いて、遺伝カウンセリング時にも活用できる腫瘍組織を用いた遺伝子検査の留意点等について、卵巣癌を例に改めて解説していきたいと思います。

MyChoice?診断システムによるtBRCA1/2およびHRD評価

III/IV期の初回進行卵巣癌や一定の条件を満たした再発卵巣癌では、tBRCA1/2とHRDの状態を調べるMyChoice?診断システムによるコンパニオン診断の実施が可能です。

HRDは二本鎖DNA修復機構のひとつである相同組換え修復(Homologous Recombination: HR)の機能が欠損した状態で、卵巣癌の約半数にHRDが認められます。PARP阻害薬は一本鎖DNA修復に関与するPARPを阻害することで、HRD状態にある癌細胞を細胞死(合成致死)に誘導するため、HRD検査はPARP阻害薬の治療効果の判定に有効です。

BRCA1/2病的バリアントはHRDを引き起こす要因となりますが、DNAのメチル化やBRCA1/2以外のHR関連遺伝子病的バリアントも要因となります4)。そのため個々の要因の有無ではなく、HRDの結果として生じ得るゲノム不安定性(GI:Genomic Instability)をスコア化して評価することでHRD状態を判定することが有効です。MyChoice?診断システムは、①ゲノム不安定性(GI)検査と②腫瘍組織によるtBRCA1/2遺伝子検査で構成され、GIスコア42以上あるいはtBRCA1/2病的バリアント陽性であればHRD陽性と判定されます(図5)。

図5: MyChoice?診断システムによるHRD判定
腫瘍組織を用いた遺伝子検査の留意点

腫瘍組織を用いたBRCA1/2遺伝子検査では、生殖細胞系列(gBRCA)の病的バリアントと体細胞(sBRCA)の病的バリアントが検出されます。理論上は「tBRCA=gBRCA+sBRCA」となりますが、腫瘍組織を用いた遺伝子検査では検出漏れが生じる可能性があることに留意する必要があります。

実際に、BRACAnalysis?診断システムとMyChoice?診断システムを用いて、日本人の進行卵巣癌(Ⅲ/Ⅳ期)患者205例におけるBRCA1/2病的バリアント陽性率を調査したCHRISTELLE試験5)では、gBRCA病的バリアント陽性率が21.5%、sBRCA病的バリアント陽性率が6.3%でした。tBRCA病的バリアント陽性率は27.8%(21.5%+6.3%)と想定されますが、MyChoice?診断システムで検出されたのは26.8%で、gBRCA病的バリアント陽性のうち2例(全体の1%)ではtBRCA病的バリアントが検出されませんでした。

これらの差が生じる理由としては、検査手法の違いが挙げられます。MyChoice?診断システムなど腫瘍組織を用いた遺伝子検査の多くは次世代シークエンサーによる解析が主であるため、Loss of Heterozygosityなどの染色体の大きな欠失は検出しにくいという特徴があります。一方、BRACAnalysis?診断システムのBART™(BRACAnalysis Large Rearrangement Test)では、染色体構造解析の一般的手法であるMLPA法に相当するため、エクソン単位の欠失を同定することが可能です。

また、血液検体ではほぼ問題になることはありませんが、組織検体の場合は固定の状態により判定不能となる場合があることにも留意する必要があります。

卵巣癌における遺伝子検査の重要性

PARP阻害薬の登場により遺伝カウンセリングの実施機会は増え、クライエントから治療に関する質問を受ける場面も少なくないと思います。遺伝カウンセリングの需要増加に伴い、治療に関する情報提供はもちろん、適切なHBOCの診断とその後の対応につなげていく重要性も増しているともいえます。

gBRCAあるいはsBRCA病的バリアント陽性の進行卵巣癌患者(III/IV期)で、プラチナ製剤を含む1次化学療法において完全奏効(CR)または部分奏効(PR)を示した症例に対するオラパリブによる維持療法の有効性を検討したSOLO-1試験6)において、7年間の全生存率はプラセボ投与群で47%、オラパリブ投与群で67%でした。

また、進行卵巣癌患者(III/IV期)で、プラチナ製剤ベースの化学療法とベバシズマブとの併用療法による初回治療においてCRまたはPRを示した症例に対するオラパリブとベバシズマブの維持療法の有効性を検討したPAOLA-1試験7,8)では、tBRCA病的バリアント陽性ではオラパリブ投与群の5年全生存率が73.2%(プラセボ投与群53.8%)、BRCAがWild-TypeかつHRD陽性では54.7%(プラセボ投与群44.2%)でした。一方、HRD陰性ではオラパリブ投与群とプラセボ投与群で差がないという結果になっており、PARP阻害薬の治療効果の判定にHRD検査が有効であることが示されました。

PARP阻害薬の中にはHRDの状態によらず使用できる薬剤もありますが、治療効果や予後予測の観点では、R0切除(手術による完全切除)を目指しながら、MyChoice?診断システムやBRACAnalysis?診断システムを適切に活用して治療を選択していくことが望ましいと考えられます(図6)。

図6: PAOLAレジメン、SOLO-1レジメンの選択(一例)
腫瘍組織を用いた遺伝子検査におけるPGPV(Presumed Germline Pathogenic Variant)の対応

最近では、認定遺伝カウンセラーもがん遺伝子パネル検査に関わる機会が増加しています。施設内でがん遺伝子パネル検査を実施していない場合でも、患者への情報提供や実施施設への紹介、その後のフォローアップを行う場合があります。現在保険適用されているがん遺伝子パネル検査は3つあり(2023年7月1日現在)、それぞれ検体の違いや、遺伝性腫瘍の区別が可能かなどの違いがあります(図7)。

図7: 保険適用されている3つのがん遺伝子パネル検査(2023年7月1日現在)

がん遺伝子パネル検査は標準治療終了後の患者が対象であるため、「germline findings」すなわち生殖細胞系列由来であることが推定される病的バリアント(PGPV)が見つかった場合、確認検査まで到達できていない患者のほうが多いという報告9があります。

卵巣癌の場合は、III/IV期の進行卵巣癌に対して初回治療中にMyChoice?診断システムの実施が可能であるため、tBRCA病的バリアントが検出された場合、初回治療が落ち着いたところ等、早い段階でBRCA1/2遺伝学的検査を行い、その後のサーベイランスや血縁者のフォローにつなげていくことが重要です。

座長からのメッセージ

織田先生、ありがとうございました。

tBRCA遺伝子検査の普及により、遺伝カウンセリングでHBOCを扱う機会が多くなっています。卵巣癌の治療成績が向上している一方で、治療効果や予後に遺伝子情報が関与しているため、遺伝カウンセリングに携わる者には臨床遺伝学的な側面だけでなく、治療面も見据えた総合的な視点が求められるという力強いメッセージでした。ご講演では、開発を主導された「GenMineTOP がんゲノムプロファイリングシステム」についてもご紹介いただき、治療に必要な情報を包括的に得られる検査であることがよく分かりました。

【出典】
1)     日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(編):遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン2021年版、金原出版、東京、2021
2)     秋山ら. 日本人類遺伝学会第67回大会. O8-4. 横浜 2022
3)     Sekine M, et al. J Gynecol Oncol. 2022 Jul;33(4):e46.
4)     Konstantinopoulos PA, et al. Cancer Discov. 2015 Nov;5(11):1137-54
5)     Oda K, et al. S Cancer Sci. 2023 Jan;114(1):271-280.
6)     DiSilvestro P, et al. J Clin Oncol. 2023 Jan 20;41(3):609-617
7)     ESMO 2022 LBA29
8)     ESMO 2023  32O
9)     Minamoto T, et al. J Hum Genet. 2022 Oct;67(10):557-563.

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