遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)について

特定の遺伝子に生まれつき変化があり、それによって明らかにがんに罹患しやすいこと(体質)を「遺伝性腫瘍」といいますが、遺伝性乳癌卵巣癌症候群は Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome を略してHBOCと使われることが多い、遺伝性腫瘍の一つです。

BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に変化(専門用語で*病的バリアント)を持っているとHBOCと診断され、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌の発症リスクが高いことがわかっています。これらの病的バリアントは、母親または父親から受け継ぐ可能性があります。

※ 遺伝子の病的バリアントとは:誰でも遺伝子の中身に少しずつ変化(バリアント)があり、それは個性につながっています。 必ずしも遺伝子の変化(バリアント)が病気と関係するわけではありませんが、がんの発症しやすさと明らかに関係している変化を「病的バリアント」と言います。

一般社団法人 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために ver.2022_1」 より引用

遺伝学的検査(BRCA1 / 2遺伝子検査)で病的バリアントが見つかった場合、血縁者も同じバリアントを保持している可能性があります。母親または父親どちらかが病的バリアントを保持している場合、病的バリアントが子供に受け継がれる可能性は、性別に関係関係なく50%になります。

遺伝子変異

現在のところ、BRCA1 / 2 遺伝子検査が保険適用となるのは、乳癌あるいは卵巣癌を発症していて、HBOCの可能性が考慮される場合の以下の条件です。この条件に当てはまらなくても、医師の判断によりHBOCの可能性が考えられることがありますが、保険が適用されず自費診療となります(2020年10月時点)。
  • 乳癌を発症しており、以下のいずれかに当てはまる
    • 45歳以下の乳癌発症
    • 60歳以下のトリプルネガティブ乳癌発症
    • 2個以上の原発性乳癌発症
    • 第3度近親者内に乳癌または卵巣癌発症者が1名以上いる
  • 卵巣癌、卵管癌および腹膜癌を発症
  • 男性乳癌を発症
  • 癌発症者でPARP阻害薬に対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合、腫瘍組織プロファイリング検査で、BRCA1 または/かつBRCA2 の生殖細胞系列の病的変異の保持が疑われる

BRCA1 / 2 遺伝子検査を受ける利点は、病的バリアントが見つかった場合、乳癌または卵巣癌を発症するリスクが高いと判断できることです。既発症者の乳癌または卵巣癌の場合、外科的手術の意思決定を行うためにBRCA1 / 2 遺伝子検査が必要となります。また、BRCA1 / 2 遺伝子検査の情報は、乳癌の早期発見のためのMRI検査など、他の医療マネジメントの決定にも重要です。

BRCA1 / 2 遺伝子検査で陽性と診断された患者さんの血縁者も乳癌または卵巣癌のリスクが高い可能性があります。遺伝性乳癌や卵巣癌が疑われたとき、遺伝性癌に詳しい医師や遺伝カウンセラーによる遺伝的リスク評価が勧められています。リスク評価は、遺伝カウンセリングなどで行われています。