インタービュー
*青木先生のご所属は、記事作成時点での情報を記載しています。
A: まず2018年にSOLO-2試験、Study19の結果に基づいて再発卵巣癌に対するオラパリブ維持療法の適応が承認されました。そして2019年にSOLO-1試験の結果に基づいて卵巣がんIII/IV期の初回化学療法後のオラパリブ維持療法が承認され、そのコンパニオン診断としてBRCA1/2検査が承認されたタイミングで「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方」を発出しました。その骨子の一つは、BRCA1/2検査をコンパニオン診断として使用する際に、同時に遺伝医療を忘れないで欲しいという考えがあります。ミリアド・ジェネティクス社のBRACAnalysis®診断システムは、生殖細胞系列のBRCA1/2検査となりますので保険診療上の要件に従いますと、患者さんが遺伝カウンセリングを受けられる体制の整備が必要になります。またSOLO-1試験の結果に従えば、この試験には対象としてベバシズマブが投与された症例は含まれていないため、直前の化学療法時にベバシズマブを使用した患者さんではオラパリブの使用は薦められません。よって、Ⅲ/Ⅳ期の診断が確定した段階でBRCA1/2検査をすることにより、維持療法を見据えて初回化学療法の選択が可能となります。
そして2020年にニラパリブがQUADRA試験の結果に基づいてプラチナ製剤感受性の相同組換え修復欠損(HRD)を有する再発卵巣癌の治療薬として承認されましたので、同学会から、2020年12月に新たに「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方」を発出しました。HRD検査すなわちミリアド・ジェネティクス社のMyChoice®診断システムはゲノム不安定性(Genomic Instability:GI)と BRCA1/2を解析・評価し、検体は腫瘍組織を用いて行われますので、 tumor(腫瘍) BRCA遺伝子(tBRCA) の結果が判明することになります。tBRCAにはgermline(生殖細胞系列)BRCA遺伝子(gBRCA) とsomatic(体細胞)BRCA遺伝子(sBRCA) の両方が含まれている可能性がありますので、その3つの概念をしっかり理解いただくことがこの見解書の骨子となります。
A: 一昨年のSOLO-1レジメン適用の際は、初回化学療法でのベバシズマブ使用有無という観点からgBRCA検査の時期をⅢ/Ⅳ期の診断直後とし、ベバシズマブとの併用は薦められないとしていました。今回PAOLAレジメンが追加されHRD陽性の場合、ベバシズマブとオラパリブの併用が可能となりましたので、見解書を改訂したところです(2021年4月15日*1,2)。PAOLA-1試験のプロトコルをみると、直近の3サイクルにベバシズマブが使用されていればPAOLAレジメンが適用可能となるので、かならずしもⅢ/Ⅳ期の診断がついたときではなくて初回化学療法を1サイクル、2サイクル実施した時点でHRD検査の実施を考慮することもできます。
A: PAOLA-1試験はTC(パクリタキセル+カルボプラチン)+ベバシズマブにベバシズマブの維持療法を併用したレジメンに対して、オラパリブ維持療法の上乗せ効果を見ています。HRD検査が陰性と判定された場合には上乗せ効果が示されなかったので、HRD陽性のときにTC+ベバシズマブからベバシズマブ・オラパリブ併用の維持療法を選択することができます。一方SOLO-1試験はベバシズマブを使用した患者さんは含まれていません。HRD検査では、ゲノム不安定性(GI)スコアとtBRCAの2つの解析で、どちらかが陽性であればHRD陽性と判定されますが、HRD検査が陽性でもtBRCA陰性の場合は、SOLO-1レジメンは適用できませんが、PAOLAレジメンは適用できます。SOLO-1レジメンはBRCA陽性ならtBRCA(MyChoice®診断システム)でもgBRCA(BRACAnalysis®診断システム)でも適用できます。
PRIMA試験では、初回化学療法で奏効が得られていれば、遺伝子ステータスによらず有効性が認められたという結果から使用にあたってはBRCA1/2やHRD検査は必須ではありません。
QUADRA試験では3又は4ラインの化学療法歴のあるプラチナ製剤感受性の再発卵巣癌のHRD陽性患者さんで有効性を示したという結果に基づき、HRD検査が必須となっています。
A: PRIMAレジメンでは、初回化学療法で完全奏功(CR)または部分奏功(PR)が得られていれば遺伝子ステータスによらず有効性が認められたという結果から、ニラパリブの使用にあたってはBRCA1/2やHRD検査は必須ではありませんが、HRDが陽性か陰性かで効果は違うことから「薬剤投与の判定を補助する」という意義があります。
gBRCAが陽性との情報がある患者さんの場合、その大部分はtBRCAが陽性になるので、HRD検査はしなくてもいいと思いますが、MyChoice®診断システムはコンパニオン診断として位置づけられているので、現行の実地臨床では実施しなくてはなりません。この点は今後の課題と考えています。
A: HRD検査を含むBRCA検査を実施する主治医は、gBRCA、 tBRCA、 sBRCAをきちんと区別して理解し、実施しようとしている検査が何を見ようとしているのかを把握しておく必要があるということです。コンパニオン診断としてはgBRCAでもtBRCAでも構わないのですが、tBRCAが陽性の場合にはgBRCA陽性である可能性が高く、遺伝医療への展開にも配慮が必要となり、血縁者にも影響が及ぶことから、とくにtBRCAとgBRCAの関連性を正しく理解いただくことが、HRDの検査を実施する際の考え方の骨子の一つです。
A: HRD検査は遺伝学的検査ではありません。HRD検査でtBRCAが陽性になったときに、生殖細胞系列の病的バリアントがあるかもしれないので、遺伝カウンセリングやBRCA1/2遺伝学的検査を受けることができる旨の説明を行い、少なくとも、遺伝カウンセリングを始めとした遺伝医療が受けられる機会を逸しないようにすることが大事です。また、自身の病院で提供できない場合は実施できる医療機関と連携を取る必要があるということです。その場合の対応については、HRDの検査を実施する際の考え方の見解書にも記載しています。
A: PAOLA-1試験におけるフランスのコホート解析*3では、gBRCAが陽性なのにもかかわらずtBRCA陰性となった患者さんが1人(0.2%)報告されています。gBRCAとtBRCAの相関については気になりますが何かデータがありますか?
A: このコホート解析ではMyChoice®診断システムで結果がでない「未確定」の割合が6.6%あり、臨床でもHRD検査の結果が不明となる件については議論になっています。例えばGIスコアが解析できない状態(Fail)で、tBRCAは陽性もしくは陰性と判定されるということはありますか?
文中のHRD検査はMyChoice®診断システムをさしています。MyChoice®およびBRACAnalysis®はミリアド・ジェネティクスの商標です。