インタビュー

卵巣癌におけるHRD検査とレジメンの考え方および検査の意義や課題について

慶應義塾大学医学部産婦人科 青木大輔教授に伺いました

取材日:2021年3月18日
インタビュイー:青木大輔教授(A)
インタビュアー:ミリアド・ジェネティクス合同会社(M)

青木大輔教授


M: 日本婦人科腫瘍学会から、「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損 (Homologous Recombination Deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方」が2020年12月に発出されていますが、背景などをご教示いただけますか?

A: まず2018年にSOLO-2試験、Study19の結果に基づいて再発卵巣癌に対するオラパリブ維持療法の適応が承認されました。そして2019年にSOLO-1試験の結果に基づいて卵巣がんIII/IV期の初回化学療法後のオラパリブ維持療法が承認され、そのコンパニオン診断としてBRCA1/2検査が承認されたタイミングで「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方」を発出しました。その骨子の一つは、BRCA1/2検査をコンパニオン診断として使用する際に、同時に遺伝医療を忘れないで欲しいという考えがあります。ミリアド・ジェネティクス社のBRACAnalysis®診断システムは、生殖細胞系列のBRCA1/2検査となりますので保険診療上の要件に従いますと、患者さんが遺伝カウンセリングを受けられる体制の整備が必要になります。またSOLO-1試験の結果に従えば、この試験には対象としてベバシズマブが投与された症例は含まれていないため、直前の化学療法時にベバシズマブを使用した患者さんではオラパリブの使用は薦められません。よって、Ⅲ/Ⅳ期の診断が確定した段階でBRCA1/2検査をすることにより、維持療法を見据えて初回化学療法の選択が可能となります。

そして2020年にニラパリブがQUADRA試験の結果に基づいてプラチナ製剤感受性の相同組換え修復欠損(HRD)を有する再発卵巣癌の治療薬として承認されましたので、同学会から、2020年12月に新たに「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方」を発出しました。HRD検査すなわちミリアド・ジェネティクス社のmyChoice™診断システムはゲノム不安定性(Genomic Instability:GI)と BRCA1/2を解析・評価し、検体は腫瘍組織を用いて行われますので、 tumor(腫瘍) BRCA遺伝子(tBRCA) の結果が判明することになります。tBRCAにはgermline(生殖細胞系列)BRCA遺伝子(gBRCA) とsomatic(体細胞系列)BRCA遺伝子(sBRCA) の両方が含まれている可能性がありますので、その3つの概念をしっかり理解いただくことがこの見解書の骨子となります。

 


M: 2021年2月、ベバシズマブを含む初回化学療法後の維持療法でのオラパリブ投与可否にmyChoice™診断システムによるHRD検査が保険適用になりました。このPAOLAレジメン追加による考え方の改訂予定はありますか?
A: 一昨年のSOLO-1レジメン適用の際は、初回化学療法でのベバシズマブ使用有無という観点からgBRCA検査の時期をⅢ/Ⅳ期の診断直後とし、ベバシズマブとの併用は薦められないとしていました。今回PAOLAレジメンが追加されHRD陽性の場合、ベバシズマブとオラパリブの併用が可能となりましたので、見解書を改訂したところです(2021年4月15日*1,2)。PAOLA-1試験のプロトコルをみると、直近の3サイクルにベバシズマブが使用されていればPAOLAレジメンが適用可能となるので、かならずしもⅢ/Ⅳ期の診断がついたときではなくて初回化学療法を1サイクル、2サイクル実施した時点でHRD検査の実施を考慮することもできます。

 


M: 初回化学療法後の維持療法PAOLAレジメンにはHRD検査、SOLO-1レジメンにはBRCAまたはHRD検査が必要ですが、PRIMAレジメンではHRD検査は必須ではありません。再発卵巣癌の治療ではQUADRAレジメンでHRD検査が必要です。それぞれのレジメンの違いは何でしょうか?
A: PAOLA-1試験はTC(パクリタキセル+カルボプラチン)+ベバシズマブにベバシズマブの維持療法を併用したレジメンに対して、オラパリブ維持療法の上乗せ効果を見ています。HRD検査が陰性と判定された場合には上乗せ効果が示されなかったので、HRD陽性のときにTC+ベバシズマブからベバシズマブ・オラパリブ併用の維持療法を選択することができます。一方SOLO-1試験はベバシズマブを使用した患者さんは含まれていません。HRD検査では、ゲノム不安定性(GI)スコアとtBRCAの2つの解析で、どちらかが陽性であればHRD陽性と判定されますが、HRD検査が陽性でもtBRCA陰性の場合は、SOLO-1レジメンは適用できませんが、PAOLAレジメンは適用できます。SOLO-1レジメンはBRCA陽性ならtBRCA(myChoice™診断システム)でもgBRCA(BRACAnalysis®診断システム)でも適用できます。

PRIMA試験では、初回化学療法で奏効が得られていれば、遺伝子ステータスによらず有効性が認められたという結果から使用にあたってはBRCA1/2やHRD検査は必須ではありません。

QUADRA試験では3又は4ラインの化学療法歴のあるプラチナ製剤感受性の再発卵巣癌のHRD陽性患者さんで有効性を示したという結果に基づき、HRD検査が必須となっています。

 


M: PAOLA-1試験では、BRCA1/2バリアント保持者に加え、さらに20%近くがHRD 陽性であり、卵巣癌患者の約50%がPARP阻害薬に反応すると特定できることを意味しています。より多くの患者さんに薬剤投与の可能性が広がったと言えると思います。HRD検査の意義や課題と思われることはありますでしょうか?

A: PRIMAレジメンでは、初回化学療法で完全奏功(CR)または部分奏功(PR)が得られていれば遺伝子ステータスによらず有効性が認められたという結果から、ニラパリブの使用にあたってはBRCA1/2やHRD検査は必須ではありませんが、HRDが陽性か陰性かで効果は違うことから「薬剤投与の判定を補助する」という意義があります。

gBRCAが陽性との情報がある患者さんの場合、その大部分はtBRCAが陽性になるので、HRD検査はしなくてもいいと思いますが、myChoice™診断システムはコンパニオン診断として位置づけられているので、現行の実地臨床では実施しなくてはなりません。この点は今後の課題と考えています。

 


M:「HRD検査の実施の考え方」で、主治医の役割としてHBOC診療の手引きを熟読することを推奨されていますが、その意図をご教示いただけますか?
A: HRD検査を含むBRCA検査を実施する主治医は、gBRCA、 tBRCA、 sBRCAをきちんと区別して理解し、実施しようとしている検査が何を見ようとしているのかを把握しておく必要があるということです。コンパニオン診断としてはgBRCAでもtBRCAでも構わないのですが、tBRCAが陽性の場合にはgBRCA陽性である可能性が高く、遺伝医療への展開にも配慮が必要となり、血縁者にも影響が及ぶことから、とくにtBRCAとgBRCAの関連性を正しく理解いただくことが、HRDの検査を実施する際の考え方の骨子の一つです。

 


M: myChoice™診断システムは腫瘍検体を用いた検査であるため、生殖細胞系列と体細胞系列の両方のBRCAバリアントを検出することができますが、当社カタログでもどちらであるかを区別することはできないと記載しています。この件についてコメントをいただけますか?
A: HRD検査は遺伝学的検査ではありません。HRD検査でtBRCAが陽性になったときに、生殖細胞系列の病的バリアントがあるかもしれないので、遺伝カウンセリングやBRCA1/2遺伝学的検査を受けることができる旨の説明を行い、少なくとも、遺伝カウンセリングを始めとした遺伝医療が受けられる機会を逸しないようにすることが大事です。また、自身の病院で提供できない場合は実施できる医療機関と連携を取る必要があるということです。その場合の対応については、HRDの検査を実施する際の考え方の見解書にも記載しています。

 


M: myChoice™診断システムに関するご質問などありますでしょうか?
A: PAOLA-1試験におけるフランスのコホート解析*3では、gBRCAが陽性なのにもかかわらずtBRCA陰性となった患者さんが1人(0.2%)報告されています。gBRCAとtBRCAの相関については気になりますが何かデータがありますか?
M: gBRCAとtBRCAの相関性については、SOLO-1試験のブリッジング試験結果での、陽性一致率 (97.2%) をmyChoice™診断システムの添付文書やカタログに記載しております。およそ3%弱の不一致の理由については、バリアント分類の変更(Variant of Uncertain Significance :VUS が陽性または陰性になったり、陽性がVUSに変更される場合など)が最も多い理由で、検体の違いや検出方法の違いにより、myChoice™診断システムでは結果がでなかったという場合もあります。
A: このコホート解析ではmyChoice™診断システムで結果がでない「未確定」の割合が6.6%あり、臨床でもHRD検査の結果が不明となる件については議論になっています。例えばGIスコアが解析できない状態(Fail)で、tBRCAは陽性もしくは陰性と判定されるということはありますか?
M: はい、GIスコアがFailの場合、tBRCAが陽性であればHRD結果は陽性ですが、tBRCAが陰性の場合は「未確定」として報告されます。myChoice™診断システムはゲノム不安定性(GI)解析とBRCA1/2解析との2つの結果から判定しますが、GI解析の方がBRCAよりも複雑な解析となります。「未確定」となるのはBRCA結果が陰性かVUSで、GI解析がFailした場合と定義しています。GI解析は腫瘍ゲノムのrearrangementのマップを再構築して3つのバイオマーカーの解析をしますので、質の良くないDNAではより十分なDNA量が必要となります。現在は検体提出時の腫瘍細胞含有率の推奨を30%以上としています。両方の解析がFailとなりHRD検査がキャンセルの場合は、要望に応じて再検査となります。

 


M: 本日はお忙しい中、インタビューにご協力いただき誠にありがとうございました。

 

 

*1 青木大輔, 見解「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断としてBRCA1あるいはBRCA2の遺伝学的検査を実施する際の考え方」 ,日本婦人科腫瘍学会 2021年4月15日
*2 片渕秀隆,青木大輔,見解「卵巣癌患者に対してコンパニオン診断として相同組換え修復欠損(Homologous Recombination Deficiency:HRD)の検査を実施する際の考え方」,日本婦人科腫瘍学会 2021年4月15日
*3 Céline Callens, et. al. “Concordance between Tumor and Germline BRCA Status in High-Grade Ovarian Carcinoma Patients in the Phase III PAOLA-1/ENGOT-ov25 Trial,” J Natl Cancer Inst, 2020 Dec 29, djaa193.

 

文中のHRD検査はmyChoice™診断システムをさしています。myChoice™およびBRACAnalysis®はミリアド・ジェネティクスの商標です。

 

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